妊娠性血小板減少症

 33歳初産婦、妊娠37週で初めて血小板減少を指摘された一例。


 子癇前症で認めるような高血圧、蛋白尿がなく、胎児の異常も報告されていない。
 よって子癇前症は考えにくい。
 HELLP症候群は、Hemolysis, Elevated Liver enzymes, and Low Platelet syndromeの略で、溶血所見、肝機能異常、高血圧がなく否定的である(表2)。

 末梢血スメアでは血小板のEDTA凝集,破砕赤血球を認めず、偽性血小板減少症は否定的。
 妊娠性血小板減少症〈gestational thrombocytopenia〉とITPは完全には鑑別できない(表1)が、妊娠後期のみで軽度の血小板減少を認めることから妊娠性血小板減少症の典型的な経過、所見と言える。仮に、妊娠後期の初発ITP としても本例での方針は経過観察となる.血小板数が5万/μl以上であれば、帝王切開術も可能である。抗核抗体陰性、蛋白尿、皮膚症状、関節症状もなく、全身性エリテマトーデス〈SLE〉の診断には至らない。

消化器症状と漢方エキス

 問題は、開腹術後の癒着が原因と考えられる麻痺性イレウスを起こす症例で、過労や冷えが増悪因子となっている。
 手術勤務では、室温の低さのため,長時間勤務で腸管の血流も障害を受ける。腹痛と便秘はサブイレウス徴候を疑わせ、腸管血流を改善する大建中湯が適応となる.大建中湯は術後イレウスの予防に外科領域でよく用いられるが,本例のようにイレウスを繰り返す例にその予防として用いることもできる.

選択肢考察
(a)潤腸湯は(e)の大黄甘草湯とともに大黄(センノシドA が含まれる)を含む処方である。高齢者の便秘で水分がなく,ころころした便の場合に用いる。
(b)六君子湯機能性胃腸症に対し、NOを介して拡張能を改善することによって胃の蠕動運動を亢進させるが、腸管運動にはあまり作用しない。
(c)大建中湯に含まれる乾姜(生姜を蒸したもの)のショウガオールは腸管血流を改善し、山椒のサンショールが蠕動運動を刺激する。
(d)半夏瀉心湯は食べ過ぎなどによる下痢に対して用いることがある。
(e)大黄甘草湯は大黄が主薬で,下剤として用いる。

参考文献
1) Yoshikawa K, et al : The effects of the Kampo medicine (Japanese herbal medicine) “Daikenchuto” on the surgical inflammatory response following laparoscopic colorectal resection. Surg Today 42 : 646-651, 2012.
2) Olaku O, White JD:Herbal therapy use by cancer patients : a literature review on case reports. Eur J Cancer 47:508-514, 2011.


日本内科学会 2013年セルフトレーニング問題 Q.13より


第2類医薬品を紹介したページもあるが、一般の方はこういうところを参考に買ってるんでしょうねぇ。
http://www.est.hi-ho.ne.jp/abes/hyakkaen08/hyakkaen08-1.htm

頚静脈怒張を伴わない両下腿浮腫

 全身性浮腫の発症要因は腎からのナトリウム排泄が主因である。これには「細胞外液量中の血漿量の増加が主たる原因の静脈圧の増加」によるものと、「血漿量のあまり増加しない膠質浸透圧低下」によるものとがある。

 一方,頚静脈の観察は中心静脈圧の上昇の判定に有用である。中心静脈圧は右房圧であり、右心室の拡張期圧を反映している。よって、右心室拡張期圧の上昇をきたす疾患、即ち右心不全を伴ううっ血性心不全、肺疾患、原発性肺高血圧症、肺動脈弁狭窄症の診断に有用である。浮腫性疾患ではうっ血性心不全や慢性収縮性心膜炎、そして腎からのNa排泄障害により、体内ナトリウム量の増加する急性糸球体腎炎、Na過剰摂取時の慢性腎不全(進行したCKD)および急性腎不全(AKI)などが含まれる。

 一方、浮腫性疾患においても中心静脈圧の上昇を伴わない疾患、即ち非代償性肝硬変ネフローゼ症候群では頸静脈の怒張はみられない。肝疾患による浮腫は低アルブミン血症および腹水貯留に伴う下肢静脈圧の上昇などが原因である。また、特発性浮腫は血管透過性の亢進が、粘液水腫では間質膠質浸透圧の上昇が原因とされ、血漿量の増加がないためにやはり頚静脈の怒脹はみられない。

 頚静脈による中心静脈圧の推定には右側の内頚静脈または外頚静脈を観察する。内頚静脈と外頚静脈は同様に利用できる。左側は縦隔をまたぐ際に大動脈を越えなければならないため、右側より高値となる場合がある。中心静脈圧は患者の上半身を30度以上起こした状態で、胸骨角〈Lewis角〉から右側の内頚静脈の拍動の頂点、もしくは外頚静脈の走路の見える頂点までの垂直の高さに10 cmを加える方法が主に用いられている。よって、坐位でこれらの頂点が胸骨角より上の部位にみられた場合には、中心静脈圧は10 cm以上あり、上昇していると言える。従って、外頚静脈に吸気時にも呼気時にも怒張が明らかにみられる場合には、中心静脈圧は上昇していると考えてよい。

参考文献
1) Devine PJ, et al:Jugular venous pulse. Window into the right heart. South Med J 100:1022-1027, 2007.
2) Steven McGee:Inspection of the Neck Veins. In:Evidence Based Physical Diagnosis 3nd Ed,293-302, Saunders Elsevier, Philadelphia, 2012.


日本内科学会 2013セルフトレーニング問題 Q.12より

遠位尿細管性アシドーシス

遠位尿細管におけるH+の分泌障害により、尿の酸性化障害を生じ、HCO3-↓となるが、Cl↑となるためanion gap正常代謝性アシドーシスをきたす。

〈鑑別〉
原発性アルドステロン症:低カリウム血症は認めるが、アルカローシスをきたす
・Bartter症候群:低カリウム血症は認めるが、アルカローシスをきたす
・Fanconi症候群:代謝性アシドーシスをきたすが、アシドーシスのために尿pHは5.5以下に低下。 
         近位尿細管障害により尿糖が陽性。
         高齢者では薬物や重金属中毒の場合以外は稀。

〈症状〉
・低K血症:四肢脱力
・多飲・多尿(尿濃縮力低下)
・ECGで、T波平低化とU波が出現する
・骨からのCa遊離:X線で骨軟化症、腎石灰化、腎結石。

〈検査〉
・ 高Cl性代謝性アシドーシス:血中Cl↑、HCO3-↓、anion gapが正常
・ 遠位尿細管の酸排泄能低下:NH4Cl負荷で、尿pH5.5以下にならない

〈治療〉
・Ⅰ型の方がⅡ型よりも臨床症状は重いが、治療にはよく反応する。
・治療の目標は、代謝性アシドーシスの補正にあり、血中HCO3-を正常化するため、アルカリ製剤(重曹など)を補充する(血中HCO3-が10mEq/l以下では、心拍出量低下を招く)。
・ Shohl液(クエン酸含有アルカリ製剤)は、結石防止となる。


日本内科学会 2013年セルフトレーニング問題 Q.11より

Basedow病に対する抗甲状腺薬治療について

 Basedow病に対する抗甲状腺薬治療では妊娠初期,殊に妊娠4 〜 7週を除き、チアマゾール〈MMI〉を第1選択薬とすることが推奨される1)。最終的な治療効果はチアマゾール〈MMI〉とプロピルチオウラシル〈PTU〉の間に明確な差はない。
 妊娠4 〜 7週では抗甲状腺薬としてPTU投与の方が、胎児奇形(臍腸瘻,臍腸管遺残症,頭皮欠損など)を認めなかったという、我が国における前向き研究(POEM試験:Pregnancy Outcome of Exposure to Methimazole)の中間報告(研究代表者 荒田尚子)が示されており、最終報告ではないが、妊娠初期のBasedow病患者では極力PTUを投与すべきである。

 Basedow病が寛解しているかどうかを判定する指標としてはTRHテスト、血清サイログロブリン値、血清T3/T4 比、T3抑制試験、TSH 受容体抗体〈TRAb〉などがあるが、現在は簡便性と有用性から主にTRAbが用いられている。寛解する例と再発する例の間には,抗甲状腺薬中止時のTRAb値に有意差があることが示されているが、TRAbが陰性でも約3割は再発し、陽性でも約3割は寛解するため、確実な指標とは言えないが、抗甲状腺薬開始後6か月、12か月後にTRAbが高値のものは寛解は望みにくい。抗甲状腺薬の中止の目安としては、抗甲状腺薬1錠隔日服用でも6か月以上、TSH値を含めて甲状腺機能が正常に保たれていれば中止を検討してもよい2)。

 抗甲状腺薬の重大な副作用には無顆粒球症、多発性関節炎、重症肝障害、MPO-ANCA関連血管炎症候群などがある。ほとんどの副作用は服用開始3か月以内に起こる。無顆粒球症の頻度は,MMIとPTUで差がないという報告や、PTUの方が多いとの報告がある。一般にはPTUの方がMMIと比べて有意に重大な副作用の発現頻度が高い。MPO-ANCA関連血管炎症候群はPTUで多く、いつ発症するか分からず、服用開始1年以上経って起こることもあるので注意を要する。

参考文献
1) 日本甲状腺学会(編集):バセドウ病治療ガイドライン2011.南江堂,2011,23-160.
2) Konishi T, et al:Drug discontinuation after treatment with minimum maintenance dose of an antithyroid drug in Graves’ disease. Endocr J 58:95-100, 2011.

2013年 日本内科学会 セルフトレーニング問題 Q10.より

バソプレシンV2受容体拮抗利尿薬

恥ずかしながら、勉強不足で詳しく知りませんでした。


http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/110113html/
より、更に要約。

うっ血性心不全と利尿薬

 うっ血性心不全患者には利尿薬が多量に使われています。フロセミド投与は一般的ですが、このフロセミドの投与量が増加すれば増加するほど死亡率が上がるとの指摘が問題視されてきています。
 持続的な利尿薬投与によってうっ血性心不全患者の予後が改善することはありません。うっ血性心不全では、患者さんはうっ血によって呼吸困難や心性浮腫に悩むことになります。これらの症状を出来るだけ早く、効果的に軽減し、より有害事象の少ない利尿薬の登場が長らく待たれておりました。

 うっ血性心不全患者の利尿効果は機械的な血液ろ過が最も強力です。次いで、よく用いられる持続静注によるカルペリチド投与があります。また、経口投与が可能な患者さんになるとフロセミドなどのループ利尿薬、さらにはアルドステロン拮抗薬が使われます。

 これらの薬剤は、尿細管レベルで考えますと必ずしも遠位尿細管でのみ働くわけではありません。従って利尿薬を使えば使うほど血中電解質バランスが崩れてくるとの副作用問題がありました。
 新しく登場したバソプレシンV2受容体拮抗薬 トルバプタンは、この問題を解決してくれました。すなわち、遠位尿細管のみで、あたかも水チャネル拮抗薬のように水の再吸収を特異的に阻害することができる薬剤です。

在胎12週(28歳)で初めて尿糖を指摘されたケース

身長157cm、体重63㎏
朝食後2時間血糖186mg/dl、HbA1c(NGSP)=6.2

この患者への対応として正しいのは?









 妊娠糖尿病〈gestational diabetes mellitus : GDM〉は妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常で、妊娠時に診断された明らかな糖尿病〈overt diabetes inpregnancy〉は含めない1)。

 75 g 経口ブドウ糖負荷試験〈OGTT〉において次の基準の1点以上を満たした場合に診断する。
1.空腹時血糖値 ≧ 92 mg/dℓ(5.1 mmol/ℓ)
2.1時間値 ≧ 180 mg/dℓ(10.0 mmol/ℓ)
3.2時間値 ≧ 153 mg/dℓ(8.5 mmol/ℓ)

 これに対し、妊娠時に診断された明らかな糖尿病〈overt diabetes in pregnancy〉は以下のいずれかを満たした場合に診断する。
1.空腹時血糖値 ≧ 126 mg/dℓ
2.HbA1c(NGSP)≧ 6.5%(HbA1cJDS)≧ 6.1%)
3.確実な糖尿病網膜症が存在する場合
4.随時血糖値 ≧ 200 mg/dℓ,あるいは75 g OGTTで2 時間値 ≧ 200 mg/dℓの場合*
 *いずれの場合も空腹時血糖かHbA1cで確認
 またHbA1c(NGSP)< 6.5% で、75 g OGTT 2 時間値 ≧ 200 mg/dℓの場合は,妊娠時に診断された明らかな糖尿病とは判定し難いので、High risk GDMとし,妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い,出産後は糖尿病に移行する可能性が高いので、厳重なフォローアップが必要である。

 本症例は妊娠糖尿病が疑われるが、現時点で明らかな糖尿病とは言えない。耐糖能の確認のために75 g 経口ブドウ糖負荷試験を行うことが必要である。
 現時点でBody Mass Index 〈BMI〉 25.6 kg/m2 と肥満であり,体重調整が望ましいが,標準体重あたり25 kcal/kgとなる1,356 kcalに妊娠前半の付加エネルギーである150 kcalを加えた1,500 kcal前後が適正エネルギーであり、1,200 kcalでは不足である。
 妊娠初期に高度の高血糖が持続していると、胎児に先天異常の確率が高まるが、この程度の軽度な高血糖であれば、通常、胎児に過剰なリスクを想定する必要はない2)。

 食事療法により血糖コントロール改善が期待されるので、直ちにインスリン治療を開始するには及ばないが、血糖自己測定を指導して十分な食後高血糖の改善がみられなければ、インスリン治療の開始も考慮すべきであり、在胎20週になるまで待つ必要はない。なお、2012年4月の診療報酬改訂から、インスリンを使用していない妊娠糖尿病に対する頻回の血糖測定(月120回以上)が算定できるようになった.

参考文献
1) http://www.dm-net.co.jp/jsdp/
2) Kitzmiller JL, et al : Pre-conception care of diabetes, congenital malformations, and spontaneous abortions. Diabetes Care 19:514-541, 1996.

2013年日本内科学会 セルフトレーニング問題 Q9.より