頚静脈怒張を伴わない両下腿浮腫

 全身性浮腫の発症要因は腎からのナトリウム排泄が主因である。これには「細胞外液量中の血漿量の増加が主たる原因の静脈圧の増加」によるものと、「血漿量のあまり増加しない膠質浸透圧低下」によるものとがある。

 一方,頚静脈の観察は中心静脈圧の上昇の判定に有用である。中心静脈圧は右房圧であり、右心室の拡張期圧を反映している。よって、右心室拡張期圧の上昇をきたす疾患、即ち右心不全を伴ううっ血性心不全、肺疾患、原発性肺高血圧症、肺動脈弁狭窄症の診断に有用である。浮腫性疾患ではうっ血性心不全や慢性収縮性心膜炎、そして腎からのNa排泄障害により、体内ナトリウム量の増加する急性糸球体腎炎、Na過剰摂取時の慢性腎不全(進行したCKD)および急性腎不全(AKI)などが含まれる。

 一方、浮腫性疾患においても中心静脈圧の上昇を伴わない疾患、即ち非代償性肝硬変ネフローゼ症候群では頸静脈の怒張はみられない。肝疾患による浮腫は低アルブミン血症および腹水貯留に伴う下肢静脈圧の上昇などが原因である。また、特発性浮腫は血管透過性の亢進が、粘液水腫では間質膠質浸透圧の上昇が原因とされ、血漿量の増加がないためにやはり頚静脈の怒脹はみられない。

 頚静脈による中心静脈圧の推定には右側の内頚静脈または外頚静脈を観察する。内頚静脈と外頚静脈は同様に利用できる。左側は縦隔をまたぐ際に大動脈を越えなければならないため、右側より高値となる場合がある。中心静脈圧は患者の上半身を30度以上起こした状態で、胸骨角〈Lewis角〉から右側の内頚静脈の拍動の頂点、もしくは外頚静脈の走路の見える頂点までの垂直の高さに10 cmを加える方法が主に用いられている。よって、坐位でこれらの頂点が胸骨角より上の部位にみられた場合には、中心静脈圧は10 cm以上あり、上昇していると言える。従って、外頚静脈に吸気時にも呼気時にも怒張が明らかにみられる場合には、中心静脈圧は上昇していると考えてよい。

参考文献
1) Devine PJ, et al:Jugular venous pulse. Window into the right heart. South Med J 100:1022-1027, 2007.
2) Steven McGee:Inspection of the Neck Veins. In:Evidence Based Physical Diagnosis 3nd Ed,293-302, Saunders Elsevier, Philadelphia, 2012.


日本内科学会 2013セルフトレーニング問題 Q.12より