コリンエステラーゼ阻害薬の副作用

 コリンエステラーゼ阻害薬は現在3剤[ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(リバスタッチ・エクセロン)]がAlzheimer型認知症患者で使用されている。
 コリンエステラーゼ阻害薬は主として中枢神経内において効果を生じるのが主たる薬物学的動態であるが、中枢神経外においても作用を有している。
 特に高度Alzheimer型認知症に対しては高用量のコリンエステラーゼ阻害薬が使用されていること1)や、また患者が誤って大量に服用する可能性があるため注意を要する。
 その共通の作用は自律神経系におけるコリン賦活作用であり、消化器系においては消化管運動を亢進させ下痢を誘発しやすい2)。頻度的には悪心,嘔吐,下痢が多い3)。
 唾液分泌も大量の服用の場合には亢進し,流涎をきたす。
 循環器系においては徐脈をきたすことがあり、洞性不整脈を有する場合や心筋梗塞の既往がある場合には慎重投与とされている4)。
 尿路系において膀胱炎などの報告はあるが2)、尿道括約筋は弛緩するため、尿閉は生じにくい。

参考文献
1) Winblad, B, et al:Donepezil in patients with severe Alzheimer’s disease : double-blind, parallel-group, placebo-controlled study. Lancet 367 : 1057-1065, 2006.
2) Winblad, B, et al:3-year study of donepezil therapy in Alzheimer’s disease: effects of early and continuous therapy. Dement Geriatr Cogn Disord 21 : 353-363, 2006.
3) Rogers, S.L, et al:Long-term efficacy and safety of donepezil in the treatment of Alzheimer’s disease : final analysis of a US multicentre open-label study. Eur Neuropsychopharmacol 10 : 195-203, 2000.
4) Hernandez, R.K, et al:Cholinesterase inhibitors and incidence of bradycardia in patients with dementia in the veterans affairs new England healthcare system. J Am Geriatr Soc, 57 : 1997-2003, 2009.


2013年 日本内科学会 セルフトレーニング問題 Q8.より

起床後からのめまい、悪心、嘔吐(72歳、男性)

MRI


 DWIとFLAIR像とで延髄の右外側に高信号域を認める。
 これよりWallenberg症候群であると診断。
 Wallenberg症候群は後下小脳動脈,または椎骨動脈分枝の閉塞により起こり、
①病巣側の小脳失調
病巣側顔面の温痛覚障害+健側半身(首から下)の温痛覚障害
障害側のHorner症候群(縮瞳,眼裂狭小,眼球陥凹,障害側顔面の無汗)
④回転性めまい,悪心・嘔吐

 健側に起こるのは首から下の温痛覚障害のみ。
 嚥下障害や味覚障害を認めることもあるが、錐体路や内側毛帯は内側を通過するため、手足の麻痺や深部感覚障害は生じない。
 延髄内側が障害されるのはDejerine症候群と呼ばれる。
 椎骨動脈系の血管障害ではアテローム血栓性だけでなく塞栓性も多く、特に若年者のWallenberg症候群ではしばしば動脈解離が原因となるため注意が必要である。

参考文献
1) 鈴木重明,田中耕太郎:【ベッドサイドの神経診断】病巣部位診断の原則 延髄.Clinical Neuroscience 21:326-328, 2003.

2013年 日本内科学会セルフトレーニング問題 Q7.より

5q-症候群

 1974年にVan den Bergheらは大球性貧血,無効造血,低分葉巨核球,正常から軽度増加を示す血小板数,5番染色体長腕(5q)の中間欠失(deletion(5q)/5q-)などの特徴を有する5名の骨髄異形成症候群〈MDS〉患者を報告し, 5q-症候群の疾患概念を提唱した.その後,この病態は他の染色体異常を呈するMDSと比較して中年女性に多く,骨髄中の芽球は5%未満で白血病転化を起こしにくく,かなり均質な症例集団からなることがわかり,WHO血液腫瘍分類(第3版)では独立した亜病型として記載された.
 一方,2006年にListらによってレナリドミドが主に低リスクMDSに有効であることが報告され,特に5q-症候群の患者で著明な貧血改善効果と異常核型が消失するという細胞遺伝学効果が示された.我が国でも5q-症候群にレナリドミドの臨床試験が組まれ,その結果,2010年8月に'5番染色体長腕部欠失を伴うMDS'の効能追加が承認された.低リスクMDSの治療戦略は,症候性貧血が主体であれば直ちに骨髄染色体分析を行い,5q染色体欠失異常が検出された症例は付加的核型異常の有無にかかわらず,レナリドミドが第1選択となる.

参考文献
1) 通山 薫:骨髄異形成症候群 5q-症候群. 別冊日本臨牀 造血器腫瘍学,日本臨牀社,2012, 362-366.
2) 通山 薫:骨髄異形成症候群 骨髄異形成症候群の治療.別冊日本臨牀 造血器腫瘍学,日本臨牀社,2012,367-372.
3) 松岡亮仁:5q- 症候群の病態解析研究の進歩.血液内科 65:316-322,2012.

日本内科学会 2013セルフトレーニング問題 Q6.より

糸球体性血尿を疑う尿所見は?

(a)赤血球円柱
(b)潜血反応3+
(c)変形のない尿中赤血球
(d)赤血球1〜4個/強拡大
(e)白血球エステラーゼ陽性









【解説】
 日常診療では試験紙による簡便な潜血反応が用いられる。しかし、横紋筋融解によるミオグロビン尿や血管内溶血によるヘモグロビン尿でも陽性となるため、潜血反応がすべて血尿を意味するわけではない。
 血尿と診断するには尿沈渣で、赤血球の存在を確認する必要がある。健常人でも尿沈渣に1〜4個/強拡大(400倍)の赤血球を認めることがあるため、5個以上/強拡大の赤血球を認めた場合に血尿と診断する。
 次に、赤血球形態から、血尿が腎を含む上部尿路由来か、尿管、膀胱などの下部尿路由来かを推定する。糸球体由来の血尿の場合は、尿細管を通過する際に浸透圧などの影響を受け変形するため、不均一な形態の赤血球が、下部尿路由来では変形のない均一な形態の赤血球が見られることが多い。赤血球円柱は糸球体から漏出した赤血球が尿細管腔内で濃縮され、円柱状になったもので、糸球体性血尿を意味する。また、蛋白尿を伴う場合も、糸球体性血尿である可能性が高い。

参考文献
1) 日本腎臓学会 血尿診断ガイドライン検討委員会:血尿診断ガイドライン.日腎会誌 48S:5-6, 2006.

日本内科学会 2013セルフトレーニング問題 Q5より

左室収縮不全による慢性心不全に対する薬物療法について

正しいのはどれか

(a)経口強心薬は生命予後を改善する。
(b)β遮断薬は左室駆出率を改善しない
(c)ジゴキシンは洞調律心不全患者の生命予後を改善する
(d)アンギオテンシン変換酵素阻害薬は無症候例へは無効である
(e)アンギオテンシン変換酵素阻害薬は可能な限り増量を試みる










【解説】
×(a)経口強心薬による生命予後の改善のエビデンスはなく、不整脈等による突然死のリスク増加などの報告がある。一方で、ピモベンダンによる身体能力改善の報告もあり、QOLの改善を目的とした使用法は選択可能である。

×(b)β遮断薬によって左室駆出率の改善がみられる。

×(c)ジゴキシンは洞調律心不全患者の心不全増悪による入院を減らすが、生命予後は改善しない。

×(d)無症候性左室収縮機能不全でも入院を抑制し、生命予後を改善する。

○(e)腎機能障害、血清カリウムの上昇および空咳などによる認容性に問題がない限り、より高用量投与の有効性が高い

参考文献
1) 松崎益徳、他:慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版). 日本循環器学会、日本胸部外科学会、日本小児循環器学会、日本心血管インターベンション学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本心電学会(http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf
参照:2011年版:http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf
2) Garg R, et al: The effect of digoxin on mortality and morbidity in patients with heart failure. The Digitalis Investigation Group. N Engl J Med 336 : 525-533, 1997.
3) Jong P, et al: Effect of enalapril on 12-year survival and life expectancy in patients with left ventricular systolic dysfunction : a follow-up study. Lancet 361: 1843-1848, 2003.
4) Packer M, et al: Comparative effects of low and high doses of the angiotensin converting enzyme inhibitor, lisinopril, on morbidity and mortality in chronic heart failure. ATLAS Study Group. Circulation 100: 2312-2318, 1999

日本内科学会 2013年セルフトレーニング問題 Q4より

バセドウ病の診断ガイドライン

a)臨床所見
1.頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
2.びまん性甲状腺腫大
3.眼球突出または特有の眼症状

b)検査所見
1.遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
2.TSH低値(0.1μU/ml以下)
3.抗TSH受容体抗体(TRAb, TBII)陽性、または刺激抗体(TSAb)陽性
4.放射性ヨード(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性


1)バセドウ病
a)の1つ以上に加えて、b)の4つを有するもの

2)確からしバセドウ病
a)の1つ以上に加えて、b)の1、2、3を有するもの

3)バセドウ病の疑い
a)の1つ以上に加えて、b)の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ヶ月以上続くもの

【付記】
1.コレステロール低値、アルカリフォスターゼ高値を示すことが多い。
2.遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある。
3.眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves' diseaseまたはeuthyroid ophthalmopathyといわれる。
4.高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
5.小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める。
6.遊離T3(pg/ml)/遊離T4(ng/dl) 比は無痛性甲状腺炎の除外に参考となる。
7.甲状腺血流測定・尿中ヨウ素の測定が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である
※ 赤字:2013年6月24日 改定

日本甲状腺学会HP日本甲状腺学会より

過疎地では4.の「放射性ヨードのアップテイク」「シンチグラフィ」のために遠方まで行かなくてはならず、probableで治療しているのが、実態でしょうか。

スギ花粉症:トリアムシノロン(ケナコルト)の筋注の是非について

 全人口の30%程度いると考えられているスギ花粉症の方は、症状が出ている間、生活上支障が出てくるため、適切な治療が求められる。抗アレルギー薬の内服、点鼻、点眼、副腎皮質ステロイドの点鼻、ロイコトリエン受容体拮抗薬が選択肢に挙がる。抗アレルギー薬を症状発来前から内服していると、症状悪化の期間が短いとされている。長期的な寛解を考えるなら、特異アレルゲンに対する免疫療法を考慮する。即効性はないが、アレルギー体質を変えることができる唯一の治療法とされている。
 また、トリアムシノロンの筋肉内注射は、3か月程度の間、ほぼ完全に症状を抑制し得るが、副腎抑制が3か月程度継続するため、副腎クリーゼ他の副作用の観点から対象者は限定される。喘息死を高い確率で起こし得る、極めて重症な気管支喘息の合併、かつ低アドヒアランスの症例に緊急避難的に使用することが示されている。専門施設以外でこうした投薬が必要な可能性はほぼない。よって、軽症のアレルギー性鼻炎に使用することは厳に慎むべきである。

参考文献
1) 日本アレルギー学会編: アレルギー性鼻炎 アレルギー疾患 診断治療ガイドライン2010. 協和企画, 東京, 2010, 166-197
2) Ogirala, et al : Single, high-dose intramuscular triamcinolone acetonide versus weekly oral methotrexate in life-threatening asthma : a double-blind study. Am J Respir Crit Care Med 152: 1461-1466,1955

日本内科学会 2013セルフトレーニング問題Q3.解説より