在胎12週(28歳)で初めて尿糖を指摘されたケース

身長157cm、体重63㎏
朝食後2時間血糖186mg/dl、HbA1c(NGSP)=6.2

この患者への対応として正しいのは?









 妊娠糖尿病〈gestational diabetes mellitus : GDM〉は妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常で、妊娠時に診断された明らかな糖尿病〈overt diabetes inpregnancy〉は含めない1)。

 75 g 経口ブドウ糖負荷試験〈OGTT〉において次の基準の1点以上を満たした場合に診断する。
1.空腹時血糖値 ≧ 92 mg/dℓ(5.1 mmol/ℓ)
2.1時間値 ≧ 180 mg/dℓ(10.0 mmol/ℓ)
3.2時間値 ≧ 153 mg/dℓ(8.5 mmol/ℓ)

 これに対し、妊娠時に診断された明らかな糖尿病〈overt diabetes in pregnancy〉は以下のいずれかを満たした場合に診断する。
1.空腹時血糖値 ≧ 126 mg/dℓ
2.HbA1c(NGSP)≧ 6.5%(HbA1cJDS)≧ 6.1%)
3.確実な糖尿病網膜症が存在する場合
4.随時血糖値 ≧ 200 mg/dℓ,あるいは75 g OGTTで2 時間値 ≧ 200 mg/dℓの場合*
 *いずれの場合も空腹時血糖かHbA1cで確認
 またHbA1c(NGSP)< 6.5% で、75 g OGTT 2 時間値 ≧ 200 mg/dℓの場合は,妊娠時に診断された明らかな糖尿病とは判定し難いので、High risk GDMとし,妊娠中は糖尿病に準じた管理を行い,出産後は糖尿病に移行する可能性が高いので、厳重なフォローアップが必要である。

 本症例は妊娠糖尿病が疑われるが、現時点で明らかな糖尿病とは言えない。耐糖能の確認のために75 g 経口ブドウ糖負荷試験を行うことが必要である。
 現時点でBody Mass Index 〈BMI〉 25.6 kg/m2 と肥満であり,体重調整が望ましいが,標準体重あたり25 kcal/kgとなる1,356 kcalに妊娠前半の付加エネルギーである150 kcalを加えた1,500 kcal前後が適正エネルギーであり、1,200 kcalでは不足である。
 妊娠初期に高度の高血糖が持続していると、胎児に先天異常の確率が高まるが、この程度の軽度な高血糖であれば、通常、胎児に過剰なリスクを想定する必要はない2)。

 食事療法により血糖コントロール改善が期待されるので、直ちにインスリン治療を開始するには及ばないが、血糖自己測定を指導して十分な食後高血糖の改善がみられなければ、インスリン治療の開始も考慮すべきであり、在胎20週になるまで待つ必要はない。なお、2012年4月の診療報酬改訂から、インスリンを使用していない妊娠糖尿病に対する頻回の血糖測定(月120回以上)が算定できるようになった.

参考文献
1) http://www.dm-net.co.jp/jsdp/
2) Kitzmiller JL, et al : Pre-conception care of diabetes, congenital malformations, and spontaneous abortions. Diabetes Care 19:514-541, 1996.

2013年日本内科学会 セルフトレーニング問題 Q9.より