臨床遺伝子学の進歩と日常診療(その3)

!注意!:自分なりの学習のまとめですので、間違っている場合があります。その点をご理解の上、お読みください。

□新生児マススクリーニング
1.先天性疾患の早期発見・早期治療による障害発生の予防が目的である。
 平成16年から18年に行われたパイロットスタディでは、脂肪酸代謝異常症における「発症後」診断の場合、生存例が71%、正常な発育をしている患者が53%であったのに対し、タンデムマスによる発見例ではすべて生存し、正常な発育を遂げていた。


2.我が国では30年以上の実績があり、数多くの小児の知的障害発症を防いできた。
 1962年にアメリカで始めて開始され、日本では1977年に全国的に実施されるようになった。


3.タンデムマス法を導入することにより、対象疾患を25種類に増やすことができる。
 タンデムマス法実施施設は衛生研究所(札幌市)、予防医学協会(東京都)、福井大学、府立母子保健総合医療センター(大阪)、市環境保健協会(大阪)、島根大学、化血研(熊本)の7カ所。
 対象疾患はアミノ酸代謝異常症として8疾患(フェニルケトン尿症メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、高チロジン血症1型、シトルリン血症(1型)、アルギニノコハク酸血症、高アルギニン血症、シトリン欠損症)、有機代謝異常として8疾患(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、3-ケトチオラーゼ欠損症、イソ吉草酸血症、3-メチルクロトニルグリシン尿症、HMG血症、複合カルボキシラーゼ欠損症、グルタル酸血症1型)、脂肪酸代謝異常として9疾患(MCAD欠損症、VLCAD欠損症、TFP(LCHAD)欠損症、CPT1欠損症、CPT2欠損症、TRANS欠損症、全身性カルニチン欠乏症、グルタル酸血症2型、SCHAD欠損症)


4.タンデムマス法による我が国での疾患発見頻度は1人/8,800人である。
 これまでに81万人の日本人新生児がスクリーニングを受け、92人の患者が発見されている。


5.発生障害予防のために費用対効果分析もなされており、社会経済的な利益が見込まれている。
 タンデムマススクリーニング検査費用と比較して、スクリーニングを行わなかった場合に必要となる、施設入所費、教育費、本人や保護者の生産性損失を大日らが分析して(1)おり、増分費用便益比は少なくとも1.91倍で、増分純便益は89億円と試算されている。

(1)大日康史他:タンデムマス法を用いた新生児マススクリーニングの費用対効果分析.日マス・スクリーニング会誌2007;17:27-34