原発肯定論vs否定論;エネルギーの需要と供給1

『再び、原発廃止に向けて』附・核燃料サイクル破綻の隠蔽
医療従事者として原発をどう考えるか−その問題点を探る
2010年5月 京都府保険医協会・京都府歯科保険医協会 環境対策委員会 編より
(協力:京都大学原子炉実験所 小出裕章先生、ですので、小出先生関連の情報をお持ちの方には目新しいものはございません、と思います)

(1)エネルギー不足と世界の原子力発電所
【肯定論】
 再生可能エネルギーへのシフトは必要であり、理想であるが、現在の科学技術レベルでは現実的な代替案はない。
 インド・中国など世界不況から真っ先に回復したこれら国々は多数の原発建設が予定されており、日本や韓国の企業・商社は巨大なビジネスチャンスとして原発建設受注に凌ぎを削っている。日本国内では核に対する強い不信感や、狭い国土に多くの人口などから大幅な増設は困難である。しかし、全地球レベルでは、発展途上国を中心に原発建設ラッシュは数十年は続き、2050年には現在の2倍近い800基に達すると言われている。

【否定論】
 エネルギー消費にどっぷり浸っていてはエネルギー浪費の悪習から逃れることは難しい。これまで、いろんな理由をつけて原発が必要だと主張されてきたが、欧米では1970年代半ばより原子力から撤退をはじめている。それは、貧弱すぎるウラン資源、巨大事故の心配、始末の方策がない放射性廃棄物、成り立たない経済性などの乗り越えられない困難があったから。
 欧米でも地球温暖化を理由に原子炉建設に向かう動きがあり、原子力関係者が「原子力ルネッサンス」と期待をかけてきた。日本でも'06年に原子力立国構想を打ち上げたが、上記のような原子力が抱える根本的な欠陥はどれも解決できていない。
原発地球温暖化に全く無力なことは別に詳述する予定)
 中国・インドを中心とする新興諸国は今後増大するエネルギー需要を賄おうとして原子力発電所も数カ所造られるだろうが、欧米・日本の原発が寿命で廃炉になるので極端には増えることもない。長期的な視点に立つのであれば遙かに資源量が多い太陽エネルギーの利用に向かうべきことは明白であり、その研究に一刻も早く向かわなければならない。そして一番大切なことは、エネルギー消費の絶対量を減らしながら、なおかつ快適に生きることができる社会の仕組みを作ることです。

(2)電力需要・供給と電力不足
【肯定論】
 省エネルギー・節電が呼びかけている不況の時代なのに、酷暑の度に最大電力消費量記録更新のニュースが聞かれる。国民のエネルギーの浪費癖は治っていない。今後、発展途上国富裕層を中心に家電製品や自動車などのエネルギー消費機器の普及はさらに進む。また、新興国の人口増加や経済発展によるエネルギー需要の増大は不可避である。この増加分は大量の温室ガスを排出する石炭火力発電によるものである。現時点で発展途上国(日本も?)の一般庶民においては、目に見えない高レベル核廃棄物より、目に見える大量の温室効果ガス排出の方が、環境負荷が大きいとの考えが主であろう。これ以上の石炭火力発電は、COP合意履行を不可能にするであろうし、さらなる需要には原子力発電で応えるしかなさそうである。
 また、電力供給は送電障害の可能性を考えると、需要のピーク時にも余裕を持つことを前提にしなければならない。島国日本ではEUのような緊急電力輸入は困難である。原子力発電による底上げがなければ、'87首都圏、'00カルフォルニアで起こった電力危機も起こらないとは言い切れまい。一瞬の送電途絶でもIT機器などには、取り返しのつかないデータの消失などを来す可能性があり、これはあらゆる業種に計り知れない重大な影響を与えるのだ。

【否定論】
 「電力需要増大が避けられない」と言う前提に立ってしまえば、エネルギー問題を乗り越える道はありません。日本では現在、電力の30%が原子力で供給されています。そのため、ほとんどの日本人は原子力を廃止すれば電力不足になると思わされています。また、今後も必要悪として受け入れざるを得ないと思っています。そして、原子力利用に反対すると「それなら電気を使うな」と言われたりします。
 しかし、発電設備の能力で見ると原子力は全体の18%でしかありません。それがなぜ、30%になっているかというと原子力発電の設備利用率だけを上げ、火力発電所のほとんどを停止させているからです。前発電設備の年間設備利用率は水力20%(Max:4000億kWh)、火力48%(Max12200億kWh)、原子力70%(Max4200億kWh)自家発電55%(Max3600億kWh)となっている(原文は図表表示)。
 電気は貯めておけないので一番たくさん使うときにあわせて発電設備を準備しておく必要があり、原子力は必要だと国や電力会社は言います。しかし、過去の実績を調べると、最大電力需要量が火力と水力発電の合計以上になったことすらほとんどありません(原文には図あり)。電力会社は水力は渇水時使えないとか、定期検査で使えない発電所があるとかで原子力発電所がなければピーク時に電力供給が不足すると主張します。また、ピーク時においてもなおかつ発電所の余裕を見ておかねばならないと言う主張もありますが、極端な電力使用のピークが生じるのは一年のうち真夏の数日、そのまた数時間のことでしかなく、契約電力設定をすることで割安な電気料金を許されている大口需要家にまずは契約電力を守らせればいいでしょう。
 大切なことは、過大な予備率を維持しようとして無駄な発電所を抱え込むことでなく、電力の使用形態の平準化を進めることです。少なくとも現在の日本という範囲を考えるならば、何の苦痛も伴わず私たちは原子力から足を洗うことができます。

 
とりあえず、まずはこんなところで。冊子をそのまま公開するのが簡単で確実ですが、発行元も公開していませんし、自分で整理することで疑問点などが明らかになるのであえてこの形で。何より、このブログが「勉強部屋」なもんで(^^;

 とりあえず今回分の自分が知らなかった事実は
「発電設備の能力で見ると原子力は全体の18%でしかありません。それがなぜ、30%になっているかというと原子力発電の設備利用率だけを上げ、火力発電所のほとんどを停止させているからです。」で、
 原発の発電設備能力がすでに30%になっていると思ってました。宮津の火力発電所見学時に、全く発電してないのを知っていながら、電力会社の「修辞」にまんまとはまってしまいました(^^;

今後のまとめの予定
A.エネルギーと需要と供給
(3)自然エネルギー・代替エネルギー
(4)エネルギー需要の増大と南北格差
(5)エネルギーの海外依存と備蓄
(6)原発と他の発電の比較
B.原発の安全性・危険性
C.地球温暖化原発
D.地域経済
E.将来のための研究・実験
F.エネルギーと生命

 以上です。