原発肯定論vs否定論;エネルギーの需要と供給2

『再び、原発廃止に向けて』附・核燃料サイクル破綻の隠蔽

医療従事者として原発をどう考えるか−その問題点を探る

2010年5月 京都府保険医協会・京都府歯科保険医協会 環境対策委員会 編より
協力:京都大学原子炉実験所 小出裕章先生

前回のまとめから9ヶ月もたってしまった(^^;
その1はこちら→http://d.hatena.ne.jp/doit3/20100622/1277168374



(3)自然エネルギー代替エネルギーへの転換は?


【肯定論】

 自然エネルギー(風力・太陽熱・波力・潮汐・地熱・バイオマスなど)やLNGなどの新代替エネルギーは、現状ではコスト面および安定供給に問題があり現実的ではない。
 たとえば風力発電においては、それに適した強い定常風や、住民に迷惑のかからない浅瀬の海岸などはほとんどなく、落雷による破損、強風による倒壊事故なども崩壊されている。出力調整は困難で、長期の低周波騒音暴露による人体への悪影響も報告されている。何よりエネルギー密度が低く、僅かの電力しか得られない。日本のすべての風力発電(大型風車は1,500基程度)を合わせても188万KW('08年末:定格出力)に過ぎず、実発電量=設備利用率(10-30%)を考えると、常時定格出力稼働する100万KW級の原発1基の数分の1に近すぎない。
 また、日本のエネルギー政策は、代替エネルギーをフレキシブルに取り込む体制になっていない。代替エネルギーにより電力が余った場合は電力会社に送り返せばよいのだが、需要の少ない時間帯(夜間など)に行うと、備蓄のできない電力は供給過剰に陥り最悪の場合は安全な出力調整が困難である原発を停止しなければならない。原発の再起動はかなりの時間とコストを必要とする。
 環境思考の新代替エネルギーは、現状では原子力と同等またはそれを上回る多大な補助金が必要であろう。エネルギー政策の今般が変わらぬ限り、新代替エネルギーの実用化は困難である。25%の温室効果ガス節減を世界に公言したが、これは原発利用の続行と新代替エネルギーへの転換なしには実現不可能な値であろう。

 電気事業法の改正・税制上の見直しなどが実行されない限り、新代替エネルギーは決して原子力発電の「代替」には成り得ない。すなわち原子力発電の廃止などできないのである。


【否定論】#原発が推進されてきた理由や現状での弱点が中心の記載

 コスト面で言うのであれば、風力は今日でも既に採算が合いますし、太陽光発電も近年急速に発電コストが下がってきています。また、天然ガスを含めた化石燃料の発電コストも原子力発電より安くなってきた。

 これまで電力会社が原子力発電を好んで建設してきたのは、法律で利潤を保証されてきたからである。電気会社は独占企業であり、電力会社の利潤はレートベース(=固定資産+建設中資産+核燃料資産+繰延資産+運転資本+特定投資)に報酬率をかけて求められる。つまり、巨大な投資を要する原発は、レートベース方式がある限り、利潤を得るためにはもっとも甘い汁である。また、過疎地にしか建設できない原発は、長大な送電設備を必要とし、それがまた資産になり利潤を膨れあがらせる。これまでは政府から多大な補助金に支えられてきたが、もし電力の自由化がなされれば、膨大な建設費がかかる原子力発電は、初期投資に耐えられず建設できない、と電力会社の首脳たちが度々表明している。
 原子力発電の最大の弱点は放射性廃物である。今日までに7兆kWhの電力を生み出してきたが、そのことはそれだけウランをもやしたことになり、それに見合う核分裂生成物を生み出したと言うことである。生み出された核分裂生成物(セシウム137、Cs137で測る)の量は広島原爆のそれの100万発分を超えた。この核分裂生成物は「高レベル放射性廃物」として100万年にわたって、生命環境から隔離しなければならない毒物である。日本はそれを単に地下に埋め捨ててしまえばいいと、安易なシナリオのもとにコスト計算されている。今言っているような方法でなく、きちんと管理し続けようとすれば、いったいどのような手段があるのか現在の科学では、シナリオすら書けない。その管理のためのエネルギーがどのくらい必要になるか定量的に示すこともできない(方法が決まらないから)が、発電したエネルギーを超えてしまうことは想像に難くない。そうした費用は一切無視されたまま、原子力発電の発電単価は安いなどと主張されてきた。
 さらにここ何十年もの間、毎年5,000億円近い政府経費が原子力に投入されてきたが、それだけの費用を新代替エネルギーの開発に投資していれば、太陽エネルギーの利用などは飛躍的に進んでいたと考えられる。


今後のまとめの予定

A.エネルギーと需要と供給

(4)エネルギー需要の増大と南北格差

(5)エネルギーの海外依存と備蓄

(6)原発と他の発電の比較

B.原発の安全性・危険性

C.地球温暖化原発

D.地域経済

E.将来のための研究・実験

F.エネルギーと生命

 以上です。